遺言は、遺言者の意思をまとめて残しておくものです。
ただしどういう形で遺言を残してもそれが全て有効になるかといえばそうではありません。遺言の方式については民法960条に「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定められています。
つまり、一定の方式に従っていない遺言は法律的に無効となってしまうのです。
例えば口頭で伝えただけのものなど。
もちろん相続人全員がそれに納得して、従うのは自由です。
しかし残された相続人同士で争いになったり、混乱したりするのをできるだけ避ける意味でも、正式な手順と形式に則った遺言を残しておくべきでしょう。
遺言書は必ず必要
民法967条~984条において、全部で7通りの遺言の方式が規定されています。
普通方式が3つ、特別方式が4つです。
普通方式
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自筆証書遺言
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公正証書遺言
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秘密証書遺言
特別方式
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一般危急時遺言
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難船危急時遺言
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一般隔絶地遺言
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船舶隔絶地遺言
全ての方式において共通するのは、遺言書という証書を作成するということです。どれも何らかの手段を使い証書を作成しなければなりません。船中での遺言などはその場で遺言書を作成できなくても後から筆記しなければ有効とならないのです。
また上記7つの方式のうち、特別方式に該当する4つはかなり特殊な限定された状況での遺言方式になりますので、一般的な生活をしていればほとんど利用することはないでしょう。
主によく利用されるのは普通方式の3つです。
以下、この3つの方式について少し説明していきます。
自筆証書遺言
複数ある遺言の方式の中で最も簡単なのがこの自筆証書遺言です。これはその名前が示すとおり、遺言者本人が自書して作成するものです。
自筆証書遺言の内容と方式
内容は
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遺言書全文
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日付
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自分の氏名+印鑑
以上。
押印する印鑑は認め印でも構いません。
印鑑代わりに拇印を押した場合は、裁判所によって認められないこともありますのでできる限り印鑑を使用することが望ましいといえます。
それ以外必要なものは紙とペンのみ。立会人や証人なども不要です。
費用もほぼかからないといっていいでしょう。
書き上げればそのまま保管しておくだけです。
ただし、実際に遺言の内容が執行される前に家庭裁判所の検認手続きを経る必要があります。
注意点
自筆証書遺言は一番簡単な方法ですが、自分で作成した場合に誰も様式や内容をチェックしないまま完成してしまいます。
当然内容に不備があればせっかく作成した遺言書が無効となってしまいますので、かなりしっかりした知識が必要となります。実際に自筆証書遺言が無効とされてしまった例はたくさんあります。
また、この方式の遺言を選ぶ場合、必ず遺言者自身が自筆しなければなりません。
本人が書いたものがどうかは筆跡によって確認されます。
従って、他人が代筆したものやパソコンで作成しプリントアウトしたものは自筆証書遺言としては認められず無効とされます。
このあたりも注意。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言をする人が公証人に遺言を作成してもらい、また保管もしてもらうものです。遺言者が自書する必要はなく、口述した内容を公証人が書いてくれます。
公正証書遺言作成時に必要なもの
必要なものは遺言書の内容をある程度まとめたメモ、具体的に遺産の内容を特定できる資料、公証人へ支払う費用などです。
遺言の内容メモなどは必ず必要というわけではありません。
手ぶらで口述のみで遺言書を作成してもらうことも可能です。
しかし事前に内容をまとめておいたほうがスムーズに公証人へ希望を伝えることができるので、できる限り用意しておいたほうがいいでしょう。
また遺言者が何らかの理由により口がきけないような場合は、遺言の趣旨の自書かもしくは手話通訳人を介して口述する方法なども選べます。
費用・証人が必要
公正証書遺言では遺言者と公証人の他に証人が最低2人必要となります。
この証人は未成年者や、またある程度遺言者の相続に関係する人はなることができません。
最終的に公正証書を作成する段階で、遺言者と証人が一緒に公証役場へ出向き、全員揃った状態で手続きを進めることになります。
また、公証役場へ支払う公正証書の作成費用も必要です。
これは遺言書の中に記載された遺産の価額によって金額が変動します。
自筆証書遺言であればほぼ紙とペンのみで作成可能ですが、公正証書遺言はこのように揃えたり支払ったりするものが結構多くなります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言が混ざり合ったような遺言方式です。
遺言書自体は自書して作成します。
そしてそれに署名捺印し、封筒に入れて同じ印鑑を使って封をします。
自筆証書遺言のように全てを自筆で書く必要はなく、パソコンなどで作成したものも有効とされています。
そしてこれを公証役場へ提出し、自分の遺言であることを証明してもらいます。
この際に公証人以外に2人以上の証人が必要となります。
公証人が証明するのは「遺言者が作成した遺言書が存在する」ということのみです。
内容に関しては確認しません。
そのため、遺言の内容を自分が死ぬまで秘密にしたいときなどには有効な方法です。
ただし公証人が内容の確認をしないということは、自筆証書遺言と同じく内容や様式に不備があった場合、無効になってしまうという可能性もそのまま残されます。
手続きが少々複雑なわりには確実に遺言を残せるやり方ではないので、公正証書遺言などに比べ実際に利用される件数はかなり少ない方法です。